まともじゃない

ポエム置き場です

水星

めくるめくミラーボール乗って水星にでも旅に出ようか。

 

誰も知らない、私にしか響かない、彼がそれを狙って選曲したかはわからない。流行りのパーティソングの合間にはさまれて、聴きなれた歌が雑な扱いを受けていた。皆ドリンクを頼んだりトイレに行ったりして次に備えている。私は、彼の一言一言に耳をすませて、一小節たりとも聞き逃しまいとしていた。

 サビで耐えかねて、マイクを取る。2人しか知らない歌なんだね、と誰かが言った。そんなこともないけど、ここではそうだった。

 

前に彼と飲みに行ったとき、私の携帯に貼られたマイナーなアーティストのステッカーを指差して「俺も好き」と言われたことを思い出した。私は彼のこと何にも知らないんだなと思った。音楽の趣味が合うことも、服の趣味が合うことも。私は彼の顔ばかり見ていたから、中身までみてなかった。でも彼は違って、私のことをよく見ていた。 

いつも上品な服を着ていますよね。なんか可愛いのつけてますねと言って、彼に会うためにいつもよりおめかしした私の、ちいさなアクセサリーを目ざとく発見するのだった。

それがとても嬉しくて、でも少し余裕も見せたいから「君のためだよ」と本気だけど冗談めかして言った。またまた、と恐縮したふりをしてビールを飲む彼は歳下なのにとても大人に見えた。

 「これからの俺らの関係ってどうなんすかね」

 そんなことを言われた日もあった。その時も今も私には心に決めた人がいて、でも目の前の彼を落胆させたくなくて黙ってしまった。

「スミマセン急に」

「いや、すごく嬉しいけど…」

「彼氏と幸せになってほしいって本気で思ってます」

  

【俺だって浮ついた心フラフラしてんのさ】

 

2人で歌詞を追いながら、あぁこの曲はこんな風にもとらえられるんだなと妙に冷静だった。間奏でタバコをふかす横顔をじっと見ていた。ちょっと気になるとかじゃなくて、好きとかでもなくて、心を奪われていた。いま私の愛はまっすぐに彼に伸びていて、今日を逃したら一生後悔すると思った。

 

【 もっと輝くとこに君を連れてゆくよ】

 

カラオケを出て、解散したあとすぐに酔ったフリして呼び出した。

 

「彼氏いるよ」

「知ってます」

「でも好き」

「またまた」

 

 めくるめくミラーボール乗って

水星にでも旅に出ようか  

いつか見たその先に何があるというの