まともじゃない

ポエム置き場です

どうでもいい

かわいいね、この後も一緒に居たい、とか言ってくれて当然だ。じゃなきゃ好きでもない男と2時間もお酒を飲んで、少しはお金を出すそぶりをしたりした労が報われない。

 

私は自己承認が自分ではできない。とくに女として価値があるかどうかは男の判断に委ねてしまう。好きでもない男でも、かわいいねと言われたいし、そのためにこうやって時間を割いてしまう。無駄だと思う。思わせぶりな態度やぶりっこしてまで、その言葉を引き出そうとしてる。帰りに本気で引き止められると面倒になるのに。

 

自分も良いなと思う人にそう言ってもらうのはとても難しい。悲しいことに、どうでもいい男ほど簡単に愛を囁いてくれる。まぁ一時の痛み止めにはなる。でも本当に好きな人や見た目が良い男にかわいいねと言われると頭がボワッとするほどドーパミンが出て多幸感につつまれる。それがやめられない。欲を言えば最終的に「付き合いたい」と言われたい。それがゴールだと思う。

 

 

水星

めくるめくミラーボール乗って水星にでも旅に出ようか。

 

誰も知らない、私にしか響かない、彼がそれを狙って選曲したかはわからない。流行りのパーティソングの合間にはさまれて、聴きなれた歌が雑な扱いを受けていた。皆ドリンクを頼んだりトイレに行ったりして次に備えている。私は、彼の一言一言に耳をすませて、一小節たりとも聞き逃しまいとしていた。

 サビで耐えかねて、マイクを取る。2人しか知らない歌なんだね、と誰かが言った。そんなこともないけど、ここではそうだった。

 

前に彼と飲みに行ったとき、私の携帯に貼られたマイナーなアーティストのステッカーを指差して「俺も好き」と言われたことを思い出した。私は彼のこと何にも知らないんだなと思った。音楽の趣味が合うことも、服の趣味が合うことも。私は彼の顔ばかり見ていたから、中身までみてなかった。でも彼は違って、私のことをよく見ていた。 

いつも上品な服を着ていますよね。なんか可愛いのつけてますねと言って、彼に会うためにいつもよりおめかしした私の、ちいさなアクセサリーを目ざとく発見するのだった。

それがとても嬉しくて、でも少し余裕も見せたいから「君のためだよ」と本気だけど冗談めかして言った。またまた、と恐縮したふりをしてビールを飲む彼は歳下なのにとても大人に見えた。

 「これからの俺らの関係ってどうなんすかね」

 そんなことを言われた日もあった。その時も今も私には心に決めた人がいて、でも目の前の彼を落胆させたくなくて黙ってしまった。

「スミマセン急に」

「いや、すごく嬉しいけど…」

「彼氏と幸せになってほしいって本気で思ってます」

  

【俺だって浮ついた心フラフラしてんのさ】

 

2人で歌詞を追いながら、あぁこの曲はこんな風にもとらえられるんだなと妙に冷静だった。間奏でタバコをふかす横顔をじっと見ていた。ちょっと気になるとかじゃなくて、好きとかでもなくて、心を奪われていた。いま私の愛はまっすぐに彼に伸びていて、今日を逃したら一生後悔すると思った。

 

【 もっと輝くとこに君を連れてゆくよ】

 

カラオケを出て、解散したあとすぐに酔ったフリして呼び出した。

 

「彼氏いるよ」

「知ってます」

「でも好き」

「またまた」

 

 めくるめくミラーボール乗って

水星にでも旅に出ようか  

いつか見たその先に何があるというの

 

 

結婚

好きな本だが、ひとつだけ引っかかる言葉があった。

「ほんとうに結ばれる運命にある男女は、自然に、とてもスムーズに結婚まで進むものだ」。
 
「結婚をまるで通過駅みたいに言ってるのが、とても嫌だと思ったの。千葉にディズニーランドがあるじゃない。そんなふうに、突然現れる結婚だってあると思う。別に、お城があるからって、そこでお姫様になりたいわけじゃないけど……」
話しながら、相手の表情が不安を帯びていく。結婚に夢を持ちすぎているわけじゃないしメルヘンな結婚観をおしつけたいわけじゃない。
 外は雨がいつまでも止まない。二軒目のバーでまとまりのない話をする男女。マスターも話しかけてこない。酔っ払ってはいないのに。
「ここまでで意義はある?」
「いいや、わかる。言っている意味はわかる」
つまり何が言いたいの、とは決して言わない彼が好きだ。本当は何を考えているかわからない、一重瞼の奥の目が好き。私たちは付き合い始めて一年が経とうとしていた。待ち合わせた下高井戸は、お互いが住む場所のちょうど中間にあるけれど、頻繁に通うほど魅力のない街だ。雨の中電車に揺られながら、何かヘンだと思った。どうして私たちは一緒に住んでいないのだろう。会うためにわざわざ電車に乗ったり、別々の場所に帰っていくのがヘン。
「恋人として一緒に住むから失敗するんだと思うの。恋人って、一緒に住む人じゃない。だって嫌なところを見せたくない人と一緒に住んだらストレスたまるの当たり前だよね。だんだん男女じゃなくなって、恥じらいもなくなって、それが結婚のタイミングとしてベストとされてるのおかしい」
 一緒に住むということと、恋人でいることを同時にしようとするのはおかしい。一緒に住むということに一番邪魔になる感情が「好き」だと思う。一緒に住むなら、男として愛せなくなっても、ともに暮らせる相手を選ばないといけないのだ。
「一緒に住もうよ。恋人としてじゃなくて、いま一緒に居たいからじゃなくて、結婚したい」
不安げに揺れていた視線が、カチッと私だけをとらえて硬直した。うれしいのか、わからないけど嫌ではなさそうだった。
「……どう思う?」
「いや、まさかと思って。嬉しい。けど、不安はないの?」
「今はない。これから出てきたらその時に言う」
「でも、二四歳って遊びたい盛りじゃない。いいの?本当に」
あなたと別れて別の人との結婚もできるけど、夢のような相手と結婚したいなら、いま私はここに居ない。
「私は確かに若いよ。でも、私はここに居る。これまでの私がそれを望んだってこと。少なくとも一年間、あなたにとどまり続けた。だからもうそれが答え」
石油王と結婚したいなら、とっくにアラブに行っている。
「いま、なに考えてるの?」
「……段取り」
彼が好きだ。まだ雨は止まない。やっぱり違う家に帰るなんてありえない。

ルミネセンス


もうどれくらいこうしているだろう。最初に目が覚めた時はカーテンの隙間から燦々ともれ込んでいた光の筋がいまはもうない。だいたい19時といったところだろうか。また堕落な1日を過ごしてしまった。大学の夏休みは人を廃人にするには充分すぎるほど余暇を与えてくれる。布団から起き上がり、徒歩7秒のトイレに行くのさえ億劫だ。

携帯を開いて、まずツイッターを見る。本垢でフォローしている大学の友達がこぞって浴衣姿を載せていた。安っぽさを競ってるみたいに下品な柄ばかりだけど、怖いものなんてない若さが眩しい。

彼女たちは自分の写真をネットに載せることに抵抗がない。きっと、痛いポエム書いたホームページを2ちゃんねるに晒された黒歴史とか、そもそも黒歴史って概念がないんだろうな。自分はどうやってもそんな可愛い顔で写真にうつれない。

ドン、ドン、

さっきから聞こえていた鈍い音は、どこかの川沿いに上がっている花火だと、こうでもしなきゃ気づかなかった。知り合いが誰も教えてくれなかったのはわざとじゃなくて、ただ忘れられてただけだと思う。素敵な彼も当然私なんか誘わない。もっとキラキラした女の子を連れて一緒になって夜空を見上げてる。首が疲れたとか、人に酔ったとかくだらない甘ったるい会話が脳内で聞こえて超ウザい。そんな女絶対性格悪いから。でもそれさえできない自分はもっと虚しい。あー死にたいナァ。

ツイッターを閉じて、今度はLINEを開く。友だち一覧を眺めて、今からでも会えそうな人は居ないか探してみるが思い当たらない。
ネットで知り合ったよくわからないおじさん。お互い本名は名乗らないけど、さみしい私の居場所になってくれるだろう。都合よく使ってるようで使われてる。やっぱりどうあがいても、いまから今日を最高の1日にするのは難しそうだ。

そもそも、わたしは楽しいことを楽しむのが苦手だ。楽しい時に楽しいと言うことが恥ずかしい。嬉しい時に嬉しいということも恥ずかしい。本当は海も行きたいしBBQもしたいし、サークルの合宿で好きな人と夜中にこっそり抜け出したりしたい。

ひとしきり自己嫌悪したところでまた私の瞼が重たくなってきた。

ドン、ドン、ドン

花火の間隔が短くなっていく。もうすぐクライマックスだ。最後の花火につけられた長い名前を、私が知ることはたぶんない。

 

 


ルミネセンス/ラブリーサマーちゃん

 

 

 

若者たちのすべて

「まだ夢を諦めるほど老けてもいないし、もう夢を追えるほど若くもない」。浅野いにおの漫画にでも出てきそうなセリフだ。でも私は諦めたくなかった。ユキオのことを。一生で一番好きになった人と結婚したいと思った。

「どちらかといえば、邦画が好き」とナツが言うと、ユキオはどんなの?と聞いた。
ジョゼと虎と魚たち」「ストロベリーショートケイクス」それから、少し考えて「ハチクロとか」と言った。ナツなりの気遣い。ユキオはどれもピンときていないようだった。
ハチクロ見たことない。今度一緒に見ようか」。
好きな映画の話をしても盛り上がらないので、共通の友人の噂話を持ち出す。ゴシップ系はダメ。ユキオは人の悪口は嫌いじゃないけど、悪口を言う女がかわいいわけもない。

思えば、ユキオとナツには共通点が少なかった。恋愛がはじまるきっかけは、ささいな共通点探しからだと思う。まずは見た目から入り、音楽の趣味、休日の過ごし方、「ものの見方」なんていうと大げさだが、結局は同じ匂いのする者同士でくっつくものだ。
 ナツは、はじめからユキオのことが好きだった。ごついスポーツブランドの時計は日焼けた彼によく似合っていたが、趣味ではなかった。寒い日はダウンじゃなくて、ウールのコートを着てほしかったし、夏の日は無地のシャツでも羽織ってくれたらよかった。それでも、休日に部活のユニフォームを着るユキオのことを誰より愛おしく思っていた。

付き合おうと言ったのはユキオのほうだった。ナツに迷いはなかったが、その時は別の男がいたので、一応、「待ってほしい」と伝えた。返事を待たせている数日は、なにをするにも身が入らず、そして、ユキオもそうであることが嬉しくて仕方なかった。ゴミを出すだけなのに口紅を塗ったり、電車ではなるべく憂いな表情でいた。もし偶然会ったらと考えるだけで心から乙女になった。そして、迷うふりをして彼を翻弄させている間、自分がとてもいい女になったような気がした。
その時付き合っていた男はナツのことをとても大切にしてくれた。まだ学生の身分なのに、ケッコンしようと本気で考えているらしかった。夜中にコンビニのバイトをして貯めたお金で、私にはびた一文も使わせず、財布を出すそぶりだけで感激してくれるような男だった。趣味も悪くなかったし、このままいけばその男とケッコンしていたかもしれない。ただ、ナツは男に愛されている自分を愛しても、男を心から愛することはなかった。

「大好きな人と結婚したいって思うの。それが、私にとってはユキオなの」

別れてもうどれくらい経つだろう、ひい、ふう、みと数えると随分年月だけは過ぎたようだ。ユキオと別れた後、ナツは何人かと付き合い、そのそれぞれは決して悪い恋愛ではなかった。その時は男を大切に思ったし、時には誇らしげに友人に紹介したりもした。それでも、ナツはふとした瞬間に気づいてしまっては興ざめした。それがぜんぶユキオを忘れるための行為であること。

「なにを言われても、もう別れる。気持ちは変わらない。出会うのが早かったね。最後の人ならケッコンもできたのに」。理論で丸め込もうとするナツから逃げるように、まくしたてたユキオの言葉がまだ刺さっている。毎年、夏の終わりが憂鬱なのは、陽が落ちるのが早くなるせいだけじゃない。

「なに見てるの?」「Facebook」「珍しいね。そういうの嫌な気分になるから見たくないって言ってたのに」。ナツの手はユキオの投稿を見つけて止まり、お盆に帰省して地元の友達とはしゃぐ彼の姿を捕えた。少し大人びたかもしれないけど、確かにユキオ。知らない世界のユキオが、ユキオらしさを失わないことだけが救いだった。
それでも、いつ最悪の知らせが届くかと不安でいる。
「ナツの実家、いつ行こうか。手土産はお酒じゃないほうがいいんだっけ。ご両親とも苦手なんでしょ」。男の言葉にうわごとのような返事だけ返し、ナツは迷っていた。今夜にするか、明日でもいい、ううん、式の直前でもいい。
「もしもし、久しぶり。あのさ、突然なんだけどね、わたし、結婚しちゃうけど、いい?」。ユキオはぞっとするだろう。噂は知り合いじゅうをかけ回って、心配した親友から連絡がくるかもしれない。「あんた、ヤバいよソレ。マジでホラー」。
それでも確認したい気持ちがナツのなかから消えず、時折発作のように激しく襲ってくるのだ。

まだ残したままの彼の番号をじっとながめる。昔は眺めすぎてそらで言えたが、今はさすがに新鮮な文字列にみえた。いちど画面にふれる。「ユキオに発信」。また一度触れたら、出てはくれなくてもユキオのもとに通知が届く。彼は4年ぶりの連絡に、何事かと思うだろう。かけなおすか、もう一度かかってくるのを待つか悩むだろう。その時間だけは私のことでいっぱいになる。ナツはそれだけで心臓がばくばくした。人生でほんの数分、大好きな人を悩ませることができる権利。使えるのは一度きりだと、なんとなく、確かに感じていた。
もういちど画面に手が触れる。プ、プ、プ、発信音に合わせて鼓動がスピードを上げる。

「おかけになった番号は現在使われておりません。番号をお確かめの上、もう一度」

ベランダで死にかけのセミが鳴いている。夏が終わろうとしていた。
「この時期になるとさ、志村の声ききたくなるね」と彼が言った。

クリームソーダ

2人でいるのにクリームソーダの炭酸が弾ける音が聞こえて終わりの予感がした。

どうしても手に入れられない男がいた。手に入れたらちゃちなモンだと思えそうで手を出せない男がいた。
いま、目の前にいる男とは違う男である。目の前の男(めんどうなので前男)は彼氏というもので、1年ほど一緒にいる。最近は一緒に住もうという話も出ていて、「いよいよあんたも年貢を納める時がきたわね」とババアの先輩に言われた。年貢を納めるとか言わないのよ平成生まれは。江戸時代の人もそうだっただろうけど、年貢は納めたくないものだ。もう恋愛してはいけない、他の男と朝を迎えたりしてはいけない。それが年貢を納めることなら絶対納めたくない。
どうしても手に入れられない男はなんと年下だった。10人居たら5人が振り向き、4人が目で追う。そして1人は本当に虜になって好きになってしまう。そんな容姿端麗な男は体格にも恵まれ、性格も適度にひねくれており、それがまたこの男のことは私にしか理解できないのでは?と思わせるのにちょうどよい捻くれ者だったのだ。男は一応年上の私に敬語で話しかけた。「このまま抜け出しません?」。退屈な飲み会が、めくるめく世界への入口になった。こんなセリフを言っても痒くならない人がいるのだ。抜け出さない?抜け出しだすとも。カラオケを出るとタクシーを捕まえていた。どこへいこう?うちにくる?彼氏大丈夫?矢継ぎ早に質問をされたが、ちゃんと答えられたものはひとつしかなかった。「大丈夫」。

その夜の次の朝と次の夜くらいまでは惚けてしまい、仕事が手につかなかった。生きていてこんなに楽しいことがあるんだと思えた。しかしその次の朝にはもう、日常だ。前男はまさか前女が不貞を働いたなどと思っているわけもなかった。

それなのに炭酸が弾ける音がやけに聞こえて、終わりの予感がするのだ。